外資系IT企業と日系メーカの違いを思う - Work Rulesを読んで -
日本企業は"意思決定は時間がかかり"、その他の事情と合わせて"生産性は高くない"と言われます。 こういったミクロな状況が積み重なって、「失われた20年」、「生産性が低い"日本"(主語の拡大)」が形成されているのでしょうか。 生産性の高い組織とは、イノベーティブな組織のことでしょうか、意思決定が早い組織のことでしょうか。
そんな中でも、どうすれば組織が生産的になれるかという組織論は昔から私の興味をつかんで放しません。組織論の構成要素の一つに「人事」は欠かすことができないものだと思いますが、生産性の高い企業の例として挙げられるGoogleの人事屋さん、ラズロ・ボック氏の著書を読みました。
- 作者: ラズロ・ボック,鬼澤 忍,矢羽野 薫
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2015/07/31
- メディア: 単行本
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面白いことに、福利厚生への考え方や昇進・昇給のシステムとしての設計は極めて日系メーカーと重なる部分が多く、このような点からは、日系企業もGoogleと遜色ない信念を持って人事設計をしていると思います。以下の人事管理入門を片手に本書をひらくと、かなりの部分でGoogleの人事システムと重なるところがあり、「日系企業」感が湧いてくることでしょう。
当たり前すぎてつまらない例ですが、わかりやすいものを挙げると
- 昇進は○○期連続して好評価を取っている社員を
- 遺族年金的なシステム
- 社員教育に力を入れる (学習する組織作り)
- 給与の"原資"が先立ち、これを分けることで給料・ボーナスが決まる
などです。
- 作者: 今野浩一郎,佐藤博樹
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2009/12/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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他方で、日系企業では現場の努力として、年下の社員が年上の社員より好成績を上げ続けている状況などで、昇進順序がひっくり返らないように評価を調整するなどシステムでは規定されていないことが起こります。例えば、私の勤める会社では、B以上の評価を2年以上連続してとっていると昇格がある明文化されていない内規があるようなのですが、BとAの評価が続いた後のある期で「こういうものには順番があるのだから今回はCで我慢して」という調整が入った経験があります(その期でB以上を取ると、若くして先輩を追い抜いてしまう)。
こういった点は、政治的な動きも含めて、外資メーカーも日系メーカーも同じことが起こりやすいんだろうなと思います。
(年功序列を維持するインセンティブは日系より小さいでしょうが…)
それに対し、ラズロ氏のGoogleでの人事運営は、氏のGEなどでの経験を反面教師に、こういった政治性をいかに排除して透明な人事オペレーションに力を入れるかというところに力点が置かれています。本書では、その要素として
- 人事もデータで語る(i.e. 日本企業でいえば、年功制を支持するなら年功を支持するデータを客観的に集めて証明する。年功制が効果的なグループとそうでないグループを分けて分析するなど分析を深堀する。)
- 社内の人事に対する率直な意見交換を促進する (なんでもアンケートを取る)
- 人事から政治要素を減らすためにマネージャーの権限を調整する(一般的な外資系マネージャーの持つ人事権を減らす→日系管理職に近いレベル)
- 人事的制度的な実験を恐れない (データがすべて)
- 権限移譲を促進する - Empowerment (マイクロマネジメントを避ける)
を大事にしながら挑戦した様々な取り組みについて紹介されています。
この中で欠かせないのは「意見交換をする文化」「権限移譲」だと思うのですが、
- ① 意見交換する文化に関して
- 「労働組合を通さない人事や組織運営に関する意見交換は許さない」という規定や「やり過ごすのが金」という文化とどうやって両立させていくのか
- ② 権限移譲に関して
- 日本の企業文化は「見える化」や、細かいスケジュール管理が基盤で、マイクロマネジメントに近い風潮があります。これから離れるのは非常に怖く、不安が伴う
が課題だと思います。結局はトップの意識が変わることが大事なのでしょうか?現場からできることはないのかなぁ。
【参考】日本企業が日本企業文化らしく、うまくいくための要素を研究し、まとめた本
- 作者: 高橋伸夫
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
- 発売日: 2002/07
- メディア: 文庫
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