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「円周率は3.05より大きいことを証明せよ」とアルキメデスな円周率

東大の入試問題と解答例

正月早々Twitterを眺めていると、「2003年の東大入試問題「円周率は3.05より大きいことを証明せよ」のツイートが。 もう14年近く経つのに話題性のある問題ですね。

当時は、ゆとり教育で「円周率を3としよう」みたいな議論が盛り上がっていて、「3だと円に内接する正6角形の周長と変わらないじゃないか。アホじゃないの。」ということが言われていたので、正6角形を正12角形に割って求める…というのは割と直ぐ思いつく解答だったのではないかなと思います。

これだけシンプルな問題だと色々な解法が出てくるようで、正八角形で十分だとか、マクローリン展開を使うだとか色々あるようです。 → 円周率が3.05より大きいことのいろんな証明 | 高校数学の美しい物語

ギリシャ時代のアルキメデスな円周率

さて、イントロが長くなりましたが、実は、この試験、私も受験してまして、ちょうど前日に「円周率πの不思議」という本を読んでいたので不思議な縁を感じながら取り組みました。この本の中には、アルキメデスが、円に内・外接する正96角形を用いて、 3 \frac{10}{71} \lt \pi \lt 3 \frac{1}{7} を示した、という事が書かれており、これを覚えていた当時の私は 3.05 \lt 3 \frac{10}{71} \lt \pi であることから、これを示そうと現場で奮闘したことを覚えています。

結局、当時は、 3 \frac{10}{71} という小学生でも見たことのあるようなシンプルな分数を導出するに至らず、時間の関係から正12角形の周長で諦めたのですが、 3 \frac{10}{71}(=3.1408...)  3 \frac{1}{7} (=3.142..) は一体どうやって求めたのでしょう。

残念ながら、先述の「円周率πの不思議」には書かれておらず、14年ぶりに調べることにしました。

アルキメデスの漸化式

円に内接・外接する正n角形の周長をそれぞれ a_n, b_nとすると、同じ円に内接・外接する正2n角形に周長 a_{2n}, b_{2n}について下記の関係式


a_{2n}=\frac{2 a_n b_n}{a_n + b_n} \\
b_{2n}=\sqrt{a_n b_n}

アルキメデスの漸化式と呼ぶそうです。⇒ Archimedes' Recurrence Formula -- from Wolfram MathWorld

アルキメデスも、これを使って円周率を求めたのでしょうか。なんか正12角形の周長計算と同じじゃね?

一応ちょっとした証明のため、ちょっと補題

f:id:Chachay:20170101212139p:plain

アルキメデスの漸化式の証明には、ちょっと三角関数的な考え方が関わってきます。関わってきますけど、時代の雰囲気を感じるため幾何学計算で覆い隠しました(中身は殆どタンジェントの半角公式です)。

一般に図のような三角形を考えると、△AEOと△HBCが相似の関係にあることから、 EA:OA=BH:CHが成り立ち、また、△BOHと△DOAが相似の関係にあるので、DA:BH=OA:OHです。

これから、 EA(=p_{n+1})= \frac{BH \cdot OA }{CH} = \frac{q_n \cdot OA}{CH}、また、 OH = \frac{BH \cdot OA }{DA} = \frac{q_n \cdot OA}{p_n}。ここで CH = AC - AH = 2OA - AH = OA  + OHを使って、 p_{n+1}= \frac{q_n \cdot OA}{CH} = \frac{q_n \cdot OA}{OA + OH}=  \frac{q_n \cdot OA}{OA +  \frac{q_n \cdot OA}{p_n}}=\frac{q_n \cdot p_n}{p_n + q_n}

次に、△AEOと△GFOの相似関係などを用いて同様に q_{n+1}^2 = p_{n+1}q_n

これを正n角形倍すると先ほどの近似式になりますね。

計算する

当初の嫌な予感通り、分数を引き出すには多少の工夫が必要そうです。

計算詳細:Archimedes Algorithm -- from Wolfram MathWorld

単位円に対する正六角形:


a_6 = 2 \sqrt{3} \\
b_6 = 3

漸化式で同じく正12角形


a_{12} = 12 (2 - \sqrt{3}) \\
b_{12} = 3 (\sqrt{6} - \sqrt{2})

これ、正96角形までやるの…?

ルートで計算を進めている時点で何か違う気が。というのも、アルキメデスの時代には、有理数つまり分数を使った表現以外は使われておらず、平方根に関する計算も不等式と有理数であらわされたといいます。

ちょっと工夫が必要そうだなぁ、と調べると、この"考古学"に既に取り組まれている方のブログに行き当たりました。

tsujimotter.hatenablog.com

分数の分母の選び方は結構、美感によって決まっていそうです。なんだか負けた気分で、今日は、ここまで…。

平方根有理数近似を投げつけて終わります。


\pi \gt b_{12} = 3 (\sqrt{6} - \sqrt{2}) = 3 \sqrt{2}(\sqrt{3} - 1) \gt 3 \frac{41}{29}(\frac{265}{153}-1) = 3 \frac{4592}{4437}=3.1.. \gt 3.05

有理数の出所:

参考文献

円周率πの不思議―アルキメデスからコンピュータまで (ブルーバックス)

円周率πの不思議―アルキメデスからコンピュータまで (ブルーバックス)